リンパ腫とはリンパ球がリンパ節内で腫瘍性に増殖する疾患で、いわゆるリンパ球の癌です。発生部位によっては1)縦隔型、2)消化管型、3)多中心型、4)皮膚型、5)その他に分類されます。犬で多いのは多中心型、皮膚型、消化管型で、猫で多いのは消化管型、腎型、縦隔型です。病期としてはⅠ~Ⅴ段階の臨床ステージに分類されます。何もしなければ約2カ月で脾臓、肝臓に転移し、最終的には骨髄まで転移して死にいたります。診断は血液検査、レントゲン検査、超音波検査、およびリンパ節の針吸引生検・骨髄吸引生検を行い、ステージ分類していきます。治療の第1選択は化学療法(抗癌剤)です。実際には4~5種類の抗癌剤を交互に投与していきます。犬の多中心型リンパ腫に関しては化学療法の反応は良く寛解率は90%ですが、生存期間は約300日です。
肥満細胞が腫瘍化したもので体表部の皮膚に発生するものが多く、まれに内蔵に発生する内蔵型もあります。組織学的(顕微鏡的)にはⅠ~Ⅲのグレードに分類され、グレードⅢは最も侵襲性が強く予後が悪いです。また病状の進行によってⅠ~Ⅳのステージに分類され、Ⅳ期が最も進んだステージとなり、末期となります(これは犬の皮膚肥満細胞腫にのみ摘要)。猫における肥満細胞腫は頭部の皮膚に最も発生が多く予後は良好ですが、内蔵型(脾臓や腸に発生)は予後の悪いものが多いのが特徴です。診断は血液検査、腹部超音波検査、腫瘍の針吸引生検を行い、ステージ分類していきます。治療は外科的切除、放射線治療、化学療法などがあります。組織学的グレードや臨床ステージによっては外科手術単独でも予後良好ですが、ステージの進んだものや組織学的グレードの悪いものはいくつかの治療法を組み合わせて行います。例えば外科手術+放射線療法あるいは外科手術+化学療法などです。
犬の乳腺腫瘍は乳腺の細胞が腫瘍性に増殖したもので、1個または複数同時に発生します。一般的には悪性:良性比率は50%:50%と言われますが、良性と悪性が同時に共存する場合もあります。悪性乳腺腫瘍には腫瘍の大きさや病状の進行によってⅠ~Ⅴ臨床ステージに分類されます。猫の乳腺腫瘍は約90%が悪性です。浸潤性、転移性も強く予後が悪いのが一般的です。血液検査、胸部レントゲン検査、腹部超音波検査などを行いステージ分類します。また、乳腺腫瘍に関しては針吸引による細胞診断では診断率が低いため、切除生検してこれを病理組織検査に依頼します。従って治療の第1選択は外科的切除になりますが、切除した乳腺腫瘍の病理組織検査によっては化学療法(抗癌剤)が必要な場合もあります。ただし、根治可能なものは犬ではステージⅣまでです(猫ではステージⅡまでが根治可能)。外科的切除には乳腺を部分的に切除する方法や片側の乳腺全部切除する方法がありますが当院では片側乳腺全摘出あるいは両側乳腺全摘出を推奨しております。なぜなら乳腺細胞が残存しているかぎり再発・新たな腫瘍発生の可能性は十分あるからです。稀に極めて攻撃的で浸潤性・転移性の強い「炎症性乳癌」という癌が見られますが、この乳癌は現時点では効果的な治療方法は何もありません。
犬の口腔内(歯肉・舌・口唇・口蓋・咽頭)に発生する主な悪性腫瘍は「悪性メラノーマ」、「扁平上皮癌」、「繊維肉腫」の3つです。どの悪性腫瘍も浸潤性が強く、下顎骨へ浸潤し、骨を溶解します。最終的には肺転移あるいは摂食障害により死亡します。また、猫の口腔内に発生する悪性腫瘍は扁平上皮癌が最も多いです。しかし、極めて侵襲性・転移性が強く、予後はかなり悪いのが特徴です。診断は下顎・胸部レントゲン検査、血液検査、針吸引生検を行いステージ分類します(Ⅰ~Ⅳ期)。治療は外科治療(顎骨部分切除、顎半切除)、放射線治療、化学療法などがあります。腫瘍の進行状況によっては外科治療のみならず、放射線治療も併用します。残念ながら化学療法に関しては十分な効果が得られる抗癌剤治療が現在ありません。
腹腔内腫瘍とは腹部臓器(肝臓・脾臓・膵臓・腎臓・膀胱・卵巣・精巣・前立腺・副腎・リンパ節・胃腸・子宮)が腫瘍化し大きくなり臨床検査で認めたものです。最も多い腹腔内腫瘍は脾臓の悪性腫瘍、消化管腫瘍、肝臓腫瘍などです。脾臓腫瘍に関しては脾臓に発生する腫瘤の2/3が腫瘍で、さらにその2/3が悪性腫瘍と言われます。特にゴールデンレットリバーなどの犬種は悪性率が高いと思われます。診断は血液検査、レントゲン検査、腹部超音波検査、超音波ガイド下針吸引生検を行います。さらにCT検査も必要です。手術可能かどうかの判断はCT検査で評価します。治療は外科手術単独で良好な場合もありますが、外科治療に加えて化学療法も併用する場合もあります。